鍼灸院による火傷のリスク
鍼灸治療、特に灸をするにあたり誰もが熱くないのか?”火傷”にならないのか?と考えます。
火傷のリスクはもちろんありますがキチンとしていればリスクはかなり抑えれます。
まずはお灸とはなにか?どういった治療なのか?そうしたことから説明していきたいと思います。
~お灸とは?~
お灸、やいととも言いますがその元はヨモギです。ヨモギの葉の産毛を陰干し・精製したもので、主に皮膚の上に乗せて燃焼させる治療を行います。
お灸の起源は約3000年前、古代中国で発明されたと言われており、多くの地方で皮膚を焼くことを治療行為としていました。
日本には遣隋使や遣唐使などによってもたらされたと言われています。
~様々な灸法~
お灸には様々なやり方があります。前に少し紹介した”カマヤミニ”や”長安”もそうですが艾の種類、使い方などで変わってきます。
また、使用目的によって艾(もぐさ)の種類も変わってきます。
・直接灸用のもぐさ
患者の皮膚の上(治療穴)に直接もぐさを置いて施灸するもので、良質もぐさというものが使用されます。
良質のもぐさは取れる割合が少ないので少し高いです。特徴も色々あります。
特徴は、香りが良い、淡黄白色、手触りがいい、繊維が細かい、夾雑物が少ない、よく乾燥している、点火しやすい、煙と灰が少ない、熱が緩和
さらに指で捻って使用する”散もぐさ”とあらかじめ一定の太さで円柱状になっている”切もぐさ”があります。
・間接灸用のもぐさ
温灸・隔物灸・灸頭鍼など間接的に皮膚に熱刺激を与える時に用いられるもぐさです。
間接的で皮膚から離れているため、火力が強い比較的粗悪なもぐさを使用します。
こちらは直接灸用の良質もぐさと違いお安くなっています。
特徴は、青臭い、黒褐色、手触りが悪い、繊維が悪く粗い、夾雑物が多い、湿気を帯びている、点火しにくい、煙や灰が多い、熱が急激で温度が高い
間接的なもぐさなので火力を必要とします、しかしにおいが気になるので電車などで帰られる方はすこし気になるかも?
●有痕灸
有痕灸とは字のままですが灸痕を残すお灸の総称です。皮膚の上に直接お灸を置いて施灸するものになります。
強い温熱刺激を与えて、それによって生じる生体反応を治療に利用するものです、種類も紹介していきます。
・透熱灸(とうねつきゅう)
良質な艾(もぐさ)を米粒大(お米ぐらいの大きさ)や半米粒大(米粒大の半分の大きさ)で灸を作り皮膚上のツボに置いてお灸を据える。
熱刺激を弱くするために細い糸状灸を使うこともあります。
お灸のサイズが大きい方が刺激量が強く、ひねる強さでも刺激量を変えれるので施術者の技量が問われます。
有痕灸といえばこれ!僕は良く踵に据えるときこのお灸をします。熱いのも一瞬なので「意外と大丈夫」という方が多いです。
・焼灼灸(しょうしゃくきゅう)
熱刺激により施灸部の皮膚および組織を破壊してしまう方法です。
局所に直接施灸することによって組織を破壊し自然に落ちて治癒するのを待つといった方法を取ります。
透熱灸と同じように艾(もぐさ)をひねり使用しますが、皮膚組織の破壊が目標になるので硬くひねり刺激量を上げます。
大きさはイボや魚の目と同じサイズになります。
現在は皮膚科などでレーザー治療を行う方が多いためあまり使用する機会がありません
・打膿灸(だのうきゅう)
わざと火傷をつくり、膏薬を塗って化膿を促し傷を治癒する過程で体の防衛機能を高めることを目的として使用します。
親指サイズのお灸を使用するため確実に火傷するうえに痕が残ります。
お灸と言えばこの「打膿灸」のイメージが強く、お灸=熱いもの というのはここからきているのではないかと思います。
この灸法は虚弱体質の方には不適切で痕も大きく残るため、現在専門の治療所いがいではほとんど行われていません。
これらの有痕灸は現在こころ整体整骨院ではほとんど取り扱っていません、やっても透熱灸ぐらいです。
ではどういったお灸をしているのか、基本的には痕の残らない「無痕灸」をおこなっています、無痕灸の種類も紹介していきます。
●無痕灸
火傷のリスクが高い有痕灸とは違い、痕が残らないようにするので火傷のリスクは低いのが”無痕灸”です。
この無痕灸も様々な種類があります、代表的なものを紹介していきます。
・知熱灸(ちねつきゅう)
良質な艾(もぐさ)を米粒大(お米ぐらいの大きさ)でお灸を作り皮膚の上のツボに置いて火をつけます
ここまでは透熱灸と一緒ですが火をつけてからお灸がある程度燃えると火を消します。
8割ほど燃やして消火すれば八分灸、9割ほど燃やして消火すれば九分灸などと呼ばれます。
消化の方法も燃焼途中でつまみ取ったり、指を押し付けたり様々で、消し方によって刺激が変わってきます。
・温灸(おんきゅう)
お灸を患部から距離を置いて燃焼させ、軸射熱で温熱刺激を与えるものになります。
その種類も様々です、少し紹介していきます。
温筒灸
「せんねん灸」が代表的なもので火傷のリスクがかなり抑えられているため素人でも扱うことができます。(他人にする時は灸師の資格が必要です。
棒灸
艾(もぐさ)を和紙などで棒状に巻き、先端を患部に近づけて温熱刺激を与えます。
棒の向きで刺激の種類が変わったりする面白いお灸なのですが、処理を間違えると火事に繋がったりするので注意が必要です。
他にも温灸器を使用した方法や、鍼と同時に刺激を与える灸頭鍼なども温灸になります。
・隔物灸(かくぶつきゅう)
お灸を直接皮膚の上で燃やすのではなく、間に物を置いてお灸をする方法です。
間に置くものにより名前が変わりますが、例えば「ニンニク灸」「味噌灸」「生姜灸」「塩灸」「ニラ灸」「墨灸」「ビワの葉灸」などがあります。
艾(もぐさ)を使用しないお灸
艾(もぐさ)を使用しないで薬物を治療する場所に塗布して、主に薬物の刺激を皮膚に加えることを目的としたお灸。
紅灸、うるし灸などがあります。
~~灸療法による事故~~
鍼灸治療は副作用がない、安全と言われてきました。しかしそれはあくまで”キチンと施術をしていれば”の話になります。
しかし”キチンとしなかった場合”事故などが起こる可能性はあります。
●灸痕の化膿
透熱灸が正しい施術方法・消毒操作で行われていればその灸痕が可能することはほとんどありません。
しかし術後の不潔操作、不注意、患者の体質、疾病などにより化膿することがあります。
原因は痂皮(かさぶた)や水疱(みずぶくれ)を破壊することによる灸痕の破壊、化膿しやすい体質(化膿菌などに対する免疫低下)、施術後の消毒を怠った、などです。
これらを予防するために、壮数を重ねる際、正しく同一店に施灸する。艾の大きさは基本的に同じ大きさに。お灸をした痕掻かないように患者に注意をしたりといった基本的なことが大切になってきます。
また、これらの処置も重要になります。
消毒を反復しておこなったり、化膿した灸痕への施灸を中止し十分に消毒乾燥させたのち軟膏などを塗布するなどの処置が必要になってきます。
●灸あたり
施灸直後、または翌日ぐらいから全身の倦怠感・疲労感・脱力感を数時間~数十時間出てくることがあります。
灸の刺激が強いことによる灸あたりです。灸あたりが強いと全身倦怠感・疲労感・脱力感以外にも頭痛、めまい、食欲不振、悪寒、発熱、嘔気などを伴って日常生活に影響することもあります。
灸あたりの原因は、灸刺激による生体の過剰反応と考えられています。前記にもある通り灸の刺激が強いことによる場合が多いです。
また、患者の体調や精神状態なども原因のひとつとしてかんがえられます。
これを予防するためには刺激量を減らしたり、体調の確認、精神状態が不安定な場合はリラックスしてもらい精神的、情緒的安定を図る必要があります。
もしも灸あたりになってしまったらしばらく安静にして少し眠るようにすると楽になります。
~鍼灸院による火傷事故~
鍼灸院による火傷事故のほとんどは施術者の油断・技術力の不足・注意事項をきちんと説明できていないことにあります。
・慣れによる火傷事故例
“慣れ”による油断は職場に慣れてきた若い先生に多いです、例えば”せんねん灸”などの乗せて火をつけるだけのお灸は患者が「動かないこと」をしっかり伝える必要があります。
・技術力が原因の火傷事故
単純に技術力不足で火傷をさせてしまうこともあります。
例えば知熱灸、自分の手で消化しないといけないため、消化をためらったりするとあっという間に消すタイミングを逃してしまいます。
すると患者には必要以上の刺激が与えられるため火傷してしまうことがあります。
灸頭鍼はさらに厄介で、鍼を刺したところにお灸を乗せて火をつけるのですが、お灸が落下する可能性もあります。
そのため全く目が離せないうえに万が一落下した場合、何を先に処理していいかわからなくなる鍼灸師の先生もいます。
~自身でお灸をする際の注意点~
患者様が火傷をする事例として、「鍼灸院でするとお金が高くかかるということで薬局で”せんねん灸”などを購入して自分で据えると火傷をした」というケースが多くあります。
原因としては色々上げられますが、特に多いと思うものを挙げていきます。
・鍼灸院でお灸をしたときにまだ熱くても大丈夫!と思い熱めのお灸を購入した
これは非常に多いです。鍼灸院でお灸をする際、特にお灸が初めての方に対していきなり刺激の強いお灸を行うことはあまりありません。
まずは自分に合うお灸を見つけるためにマイルドなお灸から試していきましょう。
・購入したお灸が熱かったが我慢して使用した
これも多いですね。もったいないというのはわかりますがその人にあった刺激量というのがあります。
限界以上の刺激量が入ると火傷するのは当たり前です。上記にも書いている通り自分でする場合はまずマイルドなお灸から試してみましょう。
・高齢者が温熱刺激に鈍感になっている
高齢の方が自分でお灸をして火傷をしたというパターンもよくあります。これは自分が火傷したことに気づいていなかったパターンが多いです。
高齢になると皮膚の感覚が鈍くなってきます、特に「カマヤミニ」や「長安」といった温筒灸の場合は刺激が弱めで火傷がしづらいという認識で行うため油断しがちです。
お灸をするということは一部を除いて火を扱うということですので火傷のリスクをゼロにすることはできません。
しかし施術者の注意、患者の意識で限りなくゼロに近づけることはできます。
最後にお灸をするときに使えるおすすめのツボを紹介していきますね~。
~~1人でも使える!お灸をするおすすめのツボ~~
今回は1人でも使えるツボをピックアップしました、肩や腰のツボなんかもいいのですが一人でやるのは少し難しいので省いています。
●合谷(ごうこく)
超有名なツボです。手の甲側、親指と人差し指の骨が交わったところぐらいです
自分の手なのでお灸を体験するのにもおすすめのツボです。
効果
鼻炎・咽頭部痛などの風邪の症状
●神門
手首を曲げた時に出来るシワを小指側へなでたら骨の出っ張りで指が止まると思います、だいたいそのあたりが神門になります。
効果
心の安定、リラックス、不眠や息切れ、便秘なんかにも使えます。
●足三里
ここも有名なツボ、松尾芭蕉の「奥の細道」にも出てきましたね。
膝のお皿の下側、外側のくぼみから指4本分を下に行けば足三里になります。
効果
足の疲れ、むくみ、胃腸の症状、膝の痛み など
●失眠
かかとのふくらみ、真ん中ぐらいにあるツボです。名前の通り不眠の方などによく使います
かかとは皮膚が薄いので半米粒大で透熱灸ぐらいがいい刺激になると思いますが自分じゃやりづらいのでカマヤミニなどでも大丈夫です
効果
不眠、神経症、むくみ、下肢の冷え、下肢の疲れ など
いかがだったでしょうか?鍼治療も灸治療もリスクをしっかり理解して、もしもの場合しっかりと対策ができるなら怖いことはなにもありません。
最近ではリスクを回避することに力を入れている鍼灸院、鍼灸整骨院を多く見ます。それも間違いではないのですがそういったところは”もしも”が起こってしまった場合にものすごく弱いです。
これから鍼灸治療を考えている方・鍼灸治療を勧められている方はそういった”もしも”にしっかりと対応できる先生かどうかを見極めてから受けてみて下さい。